Ky 「Desespoir agreable」
CD
作品紹介
“少なくとも音楽には国境は要らない” エリック・サティが託したヴィジョンが生誕150年の年に再生する。旅する音楽ユニットKy ─ 仲野麻紀とヤン・ピタールが奏でる、これが21世紀のボーダーレス・ミュージック!
Ky(キィ)は、パリ市立音楽院ジャズ科の同窓生、仲野麻紀 (alto sax, metal-clarinet, vocal)とヤン・ピタール (oud, guitar) によるユニット。自然発生的な即興演奏を軸に、エリック・サティの楽曲を自由自在に演奏。『Ky』とは、フランス語でのフォネティック [ki] = Qui “誰” という意味と音を持ちます。日本語のフォネティック [キ] にも、 たくさんの意味があります。木、気、季、希、樹、己、期...etc.
10年間演奏してきたサティの楽曲から選りすぐりの5曲を収めたPart 1と、Kyの演奏の軸となる即興演奏をベースとしたオリジナル曲と伝統曲のPart 2で構成された本作は、フランス・ブルターニュ地方にある古い教会でレコーディングされ、心地よい残響空間の中で二人の微細な息遣いまでをもらすことなく収録。各々の音は出会い、まず、今この生きた空間での即興をコンセプトに、エリック・サティの作品を様々な楽器で演奏します。演奏者は旅し、音楽も聴き手と共に旅をする。
それは、~musique vagabonde~ 旅する音楽。
曲目
Part 1:
1. Première Gnossienne(グノシエンヌ1番)
Véritables préludes flasques (pour un chien)(ぶよぶよした本当の前奏曲〔犬のための〕)
2. Sévère réprimande(叱られて)
3. Seul à la maison(家でひとりぼっち)
4. On joue(お遊び)
5. Désespoir agréable(心地よい絶望)
Danses de travers (Pièces froides)(ゆがんだ踊り〔冷たい小品〕)
6. Ⅰ
7. Ⅱ
8. Ⅲ
9. La diva de l'Empire(エンパイア劇場の歌姫)
Part 2:
10. Bleue(ブルー)
11. Un oeil, une histoire(ひとつの眼、ひとつの歴史)
12. Improvisation pour un cachalot échoué(即興演奏 マッコウクジラの座礁)
13. Laridenn Billiers(ビリエ村のラリデン)
14. Bint el Shalabiya(ビンテルシャラビーア)
15. Improvisation pour Monsieur Y(Y氏のための即興演奏)
混沌としたこの時代に、国境を越え「たゆたう」音世界をまだ見ぬ世界の人たちへ
Kyは2005年のユニット結成時からエリック・サティの楽曲を演奏してきました。すでにある5枚のCDには様々な時代のサティの作品が収録されています。今回も 彼特有の諧謔性ある作品からモンマルトル時代のものまで、5曲を録音しました。
この10年間演奏してきたにも関わらず、決して録音しなかった曲があります。それはドキュメンタリー映画のために書かれた「Bleue」という曲です。大西洋で座礁した石油タンカー、その影響下にさらされた海をテーマにした作品です。 また、美術歴史家のドキュメンタリー映画シリーズに使われた曲「Un oeil, une histoire ひつとの眼、ひとつの歴史」もYann Pittardによる楽曲です。
「Bint el Shalabiya」は、アラブ・アンダルシアの世界にもともとあった曲を、レバノンを代表する歌手、フェイルーズが歌い有名になりました。
Kyの演奏の軸となるのが、即興演奏です。演奏するその場で、演奏者が奏でる音の粒とその空間が共鳴することを願いながら2曲の即興演奏を収録しました。
今回録音をしたヨーロッパ大陸最西ブルターニュ地方にはたくさんの歌が残っています。何百年も前から、この地域の楽士は冠婚葬祭、ハレの日に村々を歩き演奏をしました。演奏に合わせてブルターニュ人は夜な夜な踊り続けます。こ の様な夜会をFest-Noz(ブルターニュ語で”夜の祭り”の意味)といいます。わたしたちはビリエ村に残るLaridenn(踊りのステップ名)という曲を演奏しています。
折しも敬愛するサティ生誕150年、そしてKy10年を迎えた節目のこの時。混沌としたこの時代に、国境を越え「たゆたう」音世界がまだ見ぬ世界の人たちへ、musique vagabonde ─ 旅する音楽として届きますよう祈りを込めて。 ── 仲野 麻紀
ピアニストの右手と左手のように分かり合える相棒として曲と共に世界を旅する
フランスの作曲家エリック・サティ(1866-1925)の作品群から私たちが選んで演奏しているものは、小節線も拍子記号もなしで書かれています(ただし、対位法の芸術的な練習曲である「心地よい絶望」と、パリのレビューのために作られた歌「エンパイア劇場の歌姫」は例外ですが)。そこで私たちは、テンポに柔軟性を持たせ、サルバドール・ダリのやわらかい時計のようにしました。また、こうした自在なリズムは自作曲や、伝統曲のアレンジでも用いています。
演奏しながら考えていたのは、海や、野菜が育つ様子や、先祖のことで、注意したのは鳥たちの邪魔をしないこと、空気を大切にもてなすことでした。エリック・サティは私たちに「問うこと」をうながしてくれました。またYuji Sagaeはレコーディングの期間中ずっと私たちを支え、答えが見つかるとはかぎらない状態を受け入れる手助けをしてくれました。彼らに深く感謝します。10年前から私たち二人は、ピアニストの右手と左手のように分かり合える相棒として、これらの曲と共に世界を旅し、ひとときのパフォーマンスを演じてきました。今回、このアルバムを通じて、これらの曲をみなさんと共有できることを心から喜んでいます。 ── ヤン・ピタール(Yann Pittard|訳:笠間直穂子)
アーティスト・プロフィール
Ky(キィ)
パリ市立音楽院ジャズ科の同窓生、仲野麻紀とヤン・ピタールによるユニット。自然発生的な即興演奏を軸に、エリック・サティの楽曲に民族楽器を取り入れ、自由自在にヨーロッパ、タジキスタン、アラブ諸国、アフリカ、アメリカ、日本で演奏。2008年、NHK-BS「サティのうた」楽曲提供、出演。2014年、フランス国営放送にてKyの特集を放送。美術アーティストとの共同制作、個展、工房、銭湯、神社仏閣、図書館など、場所を問わず演奏行脚中。
仲野 麻紀(アルト・サックス、メタル・クラリネット、ボーカル)
2002年渡仏。パリ市立音楽院にて、サックスをアンドレ・ヴレジェ、編曲をパリ・ジャズ・ビックバンド主宰のピエール・ベルトロンに師事。ボンディーコンセルバトワールでは、ステファン・パイヤンのアトリエで2年間学ぶ。フランソワ・メルヴィルにサウンド・ペインティングを学ぶ。
2005年、バンリュー・ブルース・フェスティバルへ参加。フェスティバル「アフリカラー」にて、ブルキナファソの楽士Kaba-ko等と共演。2013年、Kaba-ko日本公演プロデュース。モロッコ・スーフィー教団楽士+フリージャズプロジェクトに2011年から参加。1920年代製Conn、メタル・クラリネット、ネイを使い、色々な音を奏でる。
Yann Pittard(ウード、ギター、バック・ボーカル)
1983年生まれ。ブルターニュで育ち、9歳からギターを始める。ベルナール・ルバ率いるウゼスト・フェスティバルにて、アコーディオニストMarc PERRONEと演奏し即興演奏に出会う。ファンク、ロックなど様々なバンドで活動。17歳でバカロレアを取得、パリに活動の場を移す。同年インドへ渡り、ドタラ、BaulをNimai Chand Baulの元で習得。 2001年ブルース・バンドでVannesジャズ・フェスティバル賞。
2004年、パリ市立音楽院を卒業。Jazz科、編曲科、オーケストレーションを修得。エジプトへ渡り、ウードをHazem Shaheenと Abdu Dagherに習いカイロオペラハウス等で演奏。2004年からインドはベンガルの吟遊詩人Paban das Baul 、2008年からレバノンのHIP HOPグループRayess Bek、シリア人フルーティストNaissam Jalalと、ユニットNoun Yaのメンバーとして世界各地で演奏。ボーダーレスな音の追求をする。ドキュメンタリー映画(J.Yクストー等)の音楽制作を多く手がける。
プロモーションビデオ
Ky 『Désespoir agréable 心地よい絶望 』
ジャケットについて
今回はカリグラフィ・アーティストの浅岡千里氏を起用。
カリグラフィの筆記スタイルは、日本や中国の書にインスパイアされた、ジェスチュラル・ライティング(Gestural writing)というスタイルで、踊りのような運動性のある線が特徴的です。
御存知の通り、日本語は表意文字なのに対し、アルファベットは多言語に共通する音を表現する記号のようなもので、文字自体は意味を持ちませんが、描き方で表現性が変わります。
フランス、日本を中心に、自分たちのアイデンティティを辿るように、音世界を自由に往来する、旅する音楽Kyのコンセプトも踏まえてデザインしました。
混沌と、しかし静寂な、美しい空気をスモークブルーグレーの背景に、今回のアルバムのイメージでもある「たゆたう」音世界を文字で表現しました。── 正木なお(アート・ディレクター)